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子どもの上腕骨骨折〜上腕骨近位骨端線損傷child medicine page No.3

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上腕骨近位骨端線損傷

上腕骨の近位骨端線離開は小学校の高学年から中学生ぐらいの年代で多く見られる骨端線の骨折です。
骨端線とは成長軟骨が存在する軟骨組織で、成長期の腕や脚の骨は、この骨端線部分で長径成長(骨の長さの成長)が営まれています。この骨端線が閉鎖して骨化してしまうと骨の成長の終わりを意味します。
骨端線は骨化した骨よりも強度が弱いため、成長期の骨折はこの骨端線や骨端線と骨の境目などで起こることがほとんどです。以下に上腕骨近位骨端線損傷の概要を解説します。


上腕骨近位骨端線損傷の基本概要

上腕骨近位とは、上腕骨の肩関節に近い側をいい、その対側を意味する遠位は上腕骨の肘関節に近い側をいいます。 成長期では、上腕骨の長さの成長を担う骨端軟骨が近位と遠位に有ります。この骨端軟骨はレントゲンでは透過して描出されるため、骨との境界部が透過した線状に観察される時期があります。この線状に描出される部分を骨端線と呼びます。上腕骨近位の骨端線は、上腕骨頭と上腕骨幹部との境界にある括れた部分で解剖学では外科頚(げかけい)と呼ばれる位置に有ります。
成長期では完成した骨よりも脆弱な骨端軟骨や骨端線部分での骨折を生じることが多くなります。
成長期に起こる上腕骨近位骨折では、成長軟骨部分に起こる上腕骨近位骨端線離開(じょうわんこつきんいこったんせんりかい)と上腕骨近位若木骨折 (じょうわんこつきんいわかぎこっせつ)があります。
骨端線離開は、11歳以降より骨端線が閉鎖するまで(21歳ごろ)の間に起こりやすく、10歳以前の小児では若木骨折の形態が多くなります。

上腕骨部分名称解説図

14歳の上腕骨近位レントゲン画像
成人の上腕骨近位レントゲン画像

1.上腕骨近位若木骨折
(じょうわんこつきんいわかぎこっせつ)

上腕骨近位での若木骨折は、外科頚の骨端軟骨に起こります。原因は転倒により肩を突いて打撃による外力での損傷と、転倒などにより肘を突いた時に、肘から肩への突き上げの外力が作用して骨端軟骨が押しつぶされるように損傷するものがあります。
骨折による成長軟骨や骨の完全な離断は無く、竹節状に押しつぶされた形態に変形します。従って、上腕骨近位骨端線離開のような成長軟骨の離断は起こらず連続性が維持されており、比較的経過も良好で後遺症の心配もありません。ただし、レントゲン上で判断しにくい症例もあり、最初のレントゲン検査で骨折が分からなくても、後日の再検査で判明することもあります。そのため触診や徒手検査による判断も重要で、損傷の疑いがあれば疼痛や運動痛などの症状が除去されるまで安静、固定を施行し2週間は経過を観察します。

上腕骨近位若木骨折略図

症状

上腕骨外科頚に限局した圧痛を触知
肩の外側のふくらみのすぐ下のくびれた辺りを押えると痛みを訴えます。

上腕長軸の軸圧痛
肘を約90゚に曲げた状態にして肘から上腕の長軸方向に押し上げるように圧迫すると、骨折部に疼痛を誘発します。

上腕の捻転による疼痛誘発
上腕の上端と下端をそれぞれ把持して、互いに逆方向に捻ると骨折部に疼痛を誘発します。

その他、上腕外科頚部周囲の腫脹上腕の皮下出血、及び運動時痛などがみられます。
X線検査では、上腕外科頚部に竹節状の変形が描出されることがあります。

治療と予後

三角巾などで患側上肢を固定します(2〜3週間程度)。その後は日常動作を許可し、4〜6週経過後より運動も許可します。予後は後遺症も残さず比較的良好です。


2.上腕骨近位骨端線離開
(じょうわんこつきんいこったんせんりかい)

骨端線離開(こったんせんりかい)とは、成長軟骨層のある骨端軟骨が損傷し軟骨の離断を生じたもので、簡単にいえば成長軟骨の骨折です。上腕骨近位骨端線離開は上腕骨の外科頚の骨端線に生ずる骨端線の損傷です。
上腕骨近位骨端線離開には、外傷性のものとスポーツなどによる疲労性のものがあります。疲労性のものは、少年野球の投手に多く、リトルリーガーズショルダーなどといわれます。外傷性では、転倒や交通事故などによるものが多く、骨折を生じた位置や骨片転位により上腕骨の成長障害や上腕骨頭の無腐性壊死(むふせいえし)に至ることがあります。この様な状態に陥るか否かの評価判定には、Neer の分類や Salter の分類、AO分類法などが用いられますが、専門的になるので割愛します。簡単に説明しますと、関節包で覆われた関節内の骨折では血行が遮断されて無腐性壊死に陥ることがあります。
また、骨端線の成長軟骨には、骨増殖の旺盛な増殖性軟骨細胞層と骨増殖をしなくなった変性軟骨細胞層がありますが、スポーツ(主に野球)による疲労骨折では、変性軟骨細胞層に起こることが多く、この部位では骨の成長に支障がないため成長障害の心配はほとんどありません。しかし、転倒や事故などで骨折した場合は骨の成長に重要な増殖性軟骨細胞層を損傷(骨端線閉鎖)することがあります。その場合、上腕骨の成長が止まってしまう確立が高くなります。したがって、治療期間中の定期的な検査・経過観察も大切となります。

※ 上腕骨頭の無腐性壊死
大結節・小結節と上腕骨頭との間に少しくびれた部分があり、解剖頚(かいぼうけい)と呼ばれています。この部分で骨端線離開や骨折を起こすと上腕骨頭の血行が遮断され、無腐性壊死を起こす危険があります。
上腕骨頭の大部分は、関節軟骨で構成されています。関節軟骨に侵入する栄養血管は、骨を介して侵入しているため、骨折によりそれらの栄養供給ルートが遮断されると、骨頭は壊死(組織の死滅)を起こします。
このように栄養血管の血行障害で起こる壊死を無腐性壊死といいます。ちなみに、変性や炎症などの基礎疾患から起こる壊死の場合は無腐性壊死とはいいません。
成長期の無腐性壊死では、新生骨組織で再構築され元に戻りますが、成人で起こった場合は再構築されず、壊死組織の吸収や骨の変形、軟骨の変性などに至ります。

上腕骨近位端略図
上腕骨近位骨端線離開を生ずる位置を示す略図
上腕骨外科頚骨折の略図

 病態
外科頚、解剖頚や大結節、小結節などの成長軟骨部分で離開を生じますが、最も発生頻度が高いのは外科頚に起こる骨端線離開で、その他は極めて稀れです。私が経験した症例は全て外科頚でした。
若年者ほど骨片転位が少ない傾向にあり、11歳以降では骨片転位を生じた症例が多くみられます。
外科頚で骨端線離開を生じた場合の骨片転位は、遠位骨片が大胸筋(だいきょうきん)などの張力により前内方へ偏位します。
外科頚部の骨端線離開では骨片転位による上腕上端の変形状態が、外観的には肩関節の前方脱臼(ぜんぽうだっきゅう)と似ていますが、触診により骨頭の位置を確認すればすぐに判別できます。
近位骨片(上腕骨頭)は、大結節や小結節に付着する筋肉により外へ捻れる(外転、外旋、屈曲する)と記載された文献が多いのですが、実際は 骨片転位が軽度内転位(骨折断端が若干内側へ向く)である症例も多くみられます。

12歳女性の上腕骨外科頚骨折レントゲン画像
12歳女性上腕骨外科頚骨折レントゲン画像2

 症状
骨折部の限局性圧痛や軋轢音、肩関節運動機能制限などがみられ、また転位のある場合は異常可動性を触知します。以下、外科頚部に生じた骨端線離開についての症状を掲載します。
骨片転位の無いものでは、上腕骨外科頚部の限局性圧痛(手指で押えると骨折部分に一致した痛みがある)と上腕骨長軸の軸圧痛(肘を約90゚に曲げた状態にして、肘から上腕の長軸方向に押し上げるように圧迫すると、骨折部に疼痛を誘発します)、および上腕の捻転による疼痛誘発(上腕の上端と下端をそれぞれ把持して、互いに逆方向に捻ると骨折部に疼痛を誘発します)が観察されます。その他、上腕外科頚部周囲の腫脹、上腕の皮下出血、及び運動時痛なども現れます。
骨片転位のあるものでは、上腕骨長軸の内方偏位や短縮が見られ、骨折部の異常可動性や軋轢音(折れた断端が擦れる音)などを触知します。
整形外科のレントゲン検査で診断が確定されますが、不全骨折(いわゆるひび)の場合、判断が難しい場合もあります。


 治療と予後
骨片転位の無い場合は、3〜4週の固定をします。一方、骨片転位のある場合は、転位の状態と年齢により整復処置を行います。一般的に11歳以下では転位の角度が大きい場合に整復を行います。11歳以上では、できるだけ正確な整復を行う必要があります。また、整復してもすぐに再転位してしまう場合は、入院などで持続的な牽引を行う場合もあります。
骨癒合後は、リハビリなどの運動療法を行いますが、10歳未満ではリハビリの必要がないほどの回復力があり、骨癒合完成と同時に日常生活に完全復帰できる例もあるほどです。一方で年齢が高くなるほど、リハビリは重要度を増します。
予後は良好な場合が多いのですが、上腕骨の長軸方向への成長障害を起こした場合は健側と比較して数cm程度の短縮を生ずる場合もあります。


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