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足関節を構成する距骨は、後方に突出した突起がありますが、この部分がスポーツやダンスなどで足関節の底屈 (つま先を伸ばす動作)を繰り返すたびに圧迫刺激を受けます。これにより生じた炎症や疼痛を距骨後突起障害(きょこつこうとっきしょうがい)、もしくは距骨後部圧迫症候群(足関節後方インピンジメント症候群)、あるいはタラーコンプレッションシンドローム(talar compression syndrome)といいます。
距骨後突起は外側結節と内側結節の2つの隆起がありますが、外側結節の方が隆起が大きく、痛めるのはこの外側結節がほとんどです。また、この結節は小学生ぐらいの時期に
成長軟骨内の骨核として出現し、やがて距骨本体と癒合するのですが、何らかの原因(先天性や後天性の癒合不全もしくは足関節捻挫時の距骨外側結節の骨折による)で癒合しないまま、副骨または遊離骨となる場合があります。この状態を三角骨といい、距骨後部圧迫障害で三角骨周囲に痛みを生じたものを有痛性三角骨(ゆうつうせいさんかくこつ)といいます。
距骨後突起障害はスポーツなどのオーバーユース以外にも外傷で起こることがあり、例えば足を前方へ滑らせて急激に底屈を強いられた場合や足関節内反捻挫で底屈ぎみに捻った場合などでも、距骨後突起を圧迫して痛めてしまいます。 また、距骨後突起を急激に圧迫して骨折を生じた場合をシェファード(Shephard)骨折といい、サッカー選手やバレーダンサーに多く見られます。この距骨後突起骨折は外側結節の先端部分に起こることが多く、外側結節の癒合不全として存在する三角骨との鑑別を要します。
距骨後突起の外側結節は、個人によりその形状が異なっており、後突起障害を起こしやすい特異性を有する形状があります。Watoson CA Dobas は、外側結節を以下の4型に分類しています。
1型:正常な外側結節
2型:正常よりも大きな外側結節
3型:距骨後突起と結合していない副骨として存在する三角骨
4型:外側結節と距骨後突起との間が軟骨で結合されているもの
※ 2型はその大きさから圧迫を受けやすく、外傷性骨折(シェファード骨折)を起しやすい。またその骨折片が癒合せずに遊離すると、3型の三角骨と同様の性質となる。
※ 3型は先天的、もしくは成長の過程での癒合不全により生ずる三角骨で、このような小骨は、足部の様々な部分に 存在し、副骨(ふくこつ)もしくは過剰骨とも呼ばれている。 この様な副骨化したものは距骨本体と線維性結合しているものが多い。
※ 4型はその結合が軟骨性のために、急性外傷や反復性外力により骨折や不全骨折(いわゆるひび)を生じやすい。
急性外傷を原因とするもの
急性外傷として発生する場合は、圧迫損傷型と裂離損傷型に大別できます。この外傷の場合、主に内反尖足位(足のつま先を伸ばした状態で内返しした状態)での足関節捻挫、具体的にはヒールの高い靴を履いているときの捻挫や、サッカーや空手など足背(足の甲)で強く蹴る動作による大きな負荷の掛かった状態の足関節底屈強制により、距骨後突起や三角骨が急激に強く挟まれて損傷する圧迫損傷型となります。一方、スケートボードや体操などによる急激な足関節の背屈強制、あるいは足関節内反捻挫などで、外側結節に付着する靱帯(後距腓靱帯、後距踵靱帯)の過緊張を生じた場合、3型や4型では裂離損傷型となります。
反復する外力による疲労性を原因とするもの
疲労性もしくは慢性的に起こるものは、バレエやダンス、新体操などでのつま先立ち動作で距骨後突起や三角骨を繰り返し圧迫する事により徐々に炎症を発症します。また、2型、3型、4型などの場合、ハイヒールによる持続的底屈内反姿勢により炎症を起すケースも見られます。尚、足関節の内反捻挫などで、足関節の外側靱帯(前距腓靱帯や踵腓靱帯など)を損傷した場合、後発的に後突起障害の症状が現れる場合があります。これは、外側靱帯の断裂などで足関節が内反動揺を生じ、後距腓靱帯への緊張が高まって距骨後突起への過剰刺激が起こることと、足関節底屈時に内反偏位を起すことで正常よりも距骨後突起を圧迫しやすくなるためと考えます。
足関節の後方に痛みを訴え、アキレス腱のやや外側に圧痛を触れます。また、一般的に足関節を底屈強制すると疼痛を誘発しますが、剥離損傷型、あるいは関節内反捻挫から後発的に発症したケースでは、足関節背屈や足関節内反強制により距骨後方突起部の疼痛を誘発します。尚、バレーダンサーでは長母指屈筋腱の腱鞘炎を合併しているケースも多く見られます。
急性外傷で骨傷を伴わない場合、テーピングや包帯、スポーツ用足関節サポーターなどで足関節を固定することにより約3週程度で痛みが消失します。
骨折などの骨傷を伴うものや、軟骨損傷を伴うものでは4〜6週程度のギプスもしくは副子固定を要します。
足関節捻挫の後遺障害として症状が現れたものでは、ヒールウエッジなどの装具を用いて足関節の内反を制限すると徐々に症状が改善されます。
スポーツを行う場合は、ヒールウエッジに加えてテーピングや専用サポーターによるヒールロック固定を行います。
疲労性炎症によるものでは、つま先立ちや足関節底屈をする運動を中断し、炎症が治まるのを待ちます。
炎症などの症状が強い場合は、テーピングや包帯などで固定し、足関節の可動域を制限します。
一過性の炎症では約2〜3週の安静で痛みが治まることが多いのですが、再発を繰り返すなど慢性的経過を呈するものでは、整形外科による手術を要します。
以上の様に適切な治療と対応で予後は比較的良好となります。
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