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脱臼は比較的身近に起こる外傷のひとつです。私も治療活動において、子どもの腕(肘)の脱臼(肘内障)や成人の顎関節脱臼あるいは肩関節脱臼などはかなりの頻度で遭遇します。その中で、脱臼に対する認識が、かなり誤った情報に振り回されているケースがみられます。例えば、脱臼は外れた骨を元に戻せばそれで大丈夫と思っている方もいるようですが、関節を被う関節包(かんせつほう)や関節を支持する靱帯などの損傷を伴う場合(関節包外脱臼)は、それらの組織が回復するまでの安静・固定を施行しないと、関節が緩んだまま治ってしまい、習慣性脱臼の原因となることがあります。脱臼を生じた部位や程度により、対処のしかたは様々ですが、治療を受ける側も、ある程度は脱臼に関する知識をもって取り組むべきと考えます。このページでは、関節の基礎構造や脱臼に関する基礎情報を掲載します。
関節は2つ以上の骨が連結する部分をいいます。
関節の連結にはその可動性の有無により可動関節(可動結合)と不動関節(不動結合)があります。
可動関節(動く関節)
可動結合、非連続的結合とも言われ、骨と骨の間に関節腔が介在し、その連結は関節胞と靭帯で成されています。
可動関節は、関節の運動性と骨格の支持性の双方を担っています。一般的に関節と呼ぶ場合はこの可動関節のことをいいます。
不動関節(全く、もしくはほとんど動かない関節)
不動結合、連続的結合とも言われ、骨と骨の間に関節腔は介在せず、その連結は結合組織や軟骨組織により形成されています。
不動関節は骨格の支持性を担っていますが、関節の運動性は全く無いか、あっても僅かにズレる程度です。
関節頭と関節窩、関節軟骨
骨の連結する面を関節面といい、その表面は滑らかで光沢のある硝子軟骨(ガラスなんこつ)で構成されています。この骨端の表層を覆う硝子軟骨部分を関節軟骨といいます。関節面の形状は一方の関節面が凸面となっていて、これを関節頭(かんせつとう)といいます。それに対するもう一方の関節面は凹面を形成していて、これを関節窩(かんせつか)といいます。この関節頭と関節窩は互いにフィットして関節の支持性と円滑な運動性の基礎になっています。
関節軟骨は弾力性を有し、外力に対する緩衝作用があります。また、関節内(関節腔)を満たす滑液との相互作用により摩擦を減じてスムーズな関節運動を可能にしています。
関節軟骨を形成する硝子軟骨は、軟骨細胞とそれを取り巻くコラーゲン線維、及びプロテオグリカン(多糖類とタンパク質の複合物質)が主な成分です。このコラーゲン線維とプロテオグリカンにより、軟骨は適度な硬さと弾力性を有しています。
関節軟骨の表面は一見すると平滑ですが、電子顕微鏡などで観察すると小さなうねりや多数の凹みがあります。実はこの表面の不整な形状のおかげで滑らかな関節運動を実現しています。
関節運動が起こると滑液が関節頭と関節窩の間を流動します。滑液がこの表面の凹みやうねりを移動するときに渦流が起こり、その渦流がボールベアリングやローラーのような作用を生ずるために摩擦抵抗を減じる効果があるのです。
例えばゴルフボールは空気抵抗を減らすために穴がたくさんありますが、それも空気の流れがその穴により渦流を生じ、その渦流がベアリングの作用をして空気摩擦の影響を受けにくくしています。関節軟骨の表面にもそのようなシステムが形成されているのは驚きといえます。
関節包
関節包(かんせつほう)は、関節全体を覆う線維性の組織です。この関節包に覆われた空間を関節腔(かんせつくう)といいます。
関節包は靭帯と共に骨の連結を強固にし、さらに滑動性を高め、関節運動を補助する役割があります。また、関節内の代謝や関節の感覚を担います。
関節包の外層は線維層と呼ばれ、弾力性を有した線維を少量含む密性結合組織で構成されています。この組織は線維が非常に密な構造を形成し、比較的強固な構造をしている組織で、関節の連結を強固に補強しています。
一方、関節包の内層は滑膜層と呼ばれ、弾性線維を少量含んだ疎性結合組織で構成されています。密性結合組織と比較して線維はまばらで隙間があります。この滑膜層には神経・血管が豊富に分布し、マクロファージや脂肪細胞なども混在しています。
滑膜層の表面は滑膜細胞で覆われています。この滑膜細胞からは、ヒアルロン酸などを含む滑液が分泌され、関節の滑りを円滑にする役割があります。また、豊富な血管や神経が分布する滑膜層は、血管や神経を持たない関節内組織の代謝活動を助けます。
靱帯
靱帯(じんたい)は、2つ以上の骨を連結する線維性の組織です。
関節を構成する靭帯には、関節包の外側に存在する関節外靱帯と、関節腔内に存在する関節内靱帯があります。
関節外靱帯には、関節包の外層を構成する結合組織が部分的に肥厚して、関節包を補強する関節包靱帯と、独立して2つの骨間を繋ぐ骨間靱帯があります。この骨間靱帯は一般的に骨を覆う骨膜組織から延長して索状に束ねられた結合組織で構成されています。
一方の関節内靱帯は、関節包に覆われている関節腔(かんせつくう)の中で、関節を構成する骨端を直接繋ぐ索状の線維組織です。
靱帯は、関節の支持性を高め、また関節の運動方向を誘導するなどの作用があります。
半関節(はんかんせつ)
関節頭や関節窩の形成が不完全で、代わりに強力な靭帯や線維軟骨などにより補強されていて、可動性が著しく制限された関節を半関節といいます。
半関節には肩鎖関節、仙腸関節、手根間関節、足根間関節などがあります。
滑走関節(かっそうかんせつ)
関節頭と関節窩の形状が発達していて可動性に優れた関節をいいます。
滑走関節は関節頭と関節窩の形状により可動範囲や可動方向に特徴があります。
滑走関節には肩関節、股関節、肘関節、距腿関節、膝関節、指関節などがあります。
蝶番関節
関節頭が円柱状をしていて、関節窩はその円柱に相対する凹みを形成しています。運動は円柱の軸を中心に回転する一方向の運動となります。
蝶番関節には、肘関節の腕尺関節、手指や足指の指節間関節が該当します。
車軸関節
並列する長管骨が骨端部分で連結し、一方の骨が他方の骨の周りを回る関節をいいます。橈骨と尺骨で関節する上・下の橈尺関節、頸椎の環椎と軸椎間の関節が該当します。
鞍関節
鞍状の関節面が相対している関節で、どちらの関節面も凸面と凹面を形成する弯曲があり、前後・左右の二方向へ運動ができます。母指の手根中手(MP)関節と、胸骨・鎖骨間の胸鎖関節が該当します。
楕円関節
楕円形の関節頭と、やや浅く相対する関節窩で構成される関節です。顆状関節とも呼ばれ、前後方向と左右方向の二方向運動を行いますが、この二方向の運動を互いに連続して行うことで分回し運動もできます。
橈骨手根関節、中手指節関節、顎関節、膝関節、環椎後頭関節が該当します。
球関節
球状の関節頭が受け皿状の関節窩と形成する関節です。この関節は運動性が高く、前後、左右、上下、回旋、分回し運動ができます。肩関節、肘関節の腕橈関節、股関節が該当します。尚、股関節は関節窩が深く臼状関節ともいわれています。また、腕橈関節は腕尺関節と共に肘関節を形成しており、隣接する腕尺関節の影響で実際の運動自由度は低くなっています。
平面関節
ほぼ平らな関節面どうしで関節を形成しているタイプです。滑り運動を行うことができ、椎間関節や足根中足関節が該当します。
一軸性関節
運動自由度1度の関節をいいます。車軸関節、蝶番関節が該当します。
二軸性関節
運動自由度2度の関節をいいます。楕円関節、鞍関節が該当します。
多軸性関節
運動自由度3度以上の関節をいいます。球関節、臼状関節が該当します。
軸無し関節
水平面を滑る運動をする関節をいいます。平面関節が該当します。文献によってはこの平面関節や仙腸関節などの半関節を多軸関節に含めて分類する場合もあります。また、過去には球関節、臼状関節を3軸関節に分類し、平面関節を多軸性関節に分類したものが主流の時期もありました。
縫合
頭蓋骨間の結合に見られるもので、両骨間が縫い合わされたように接合し、その接合部分を満たす結合組織で密に連結されています。
靭帯結合
隣接する2つの骨が強靭な線維性結合組織により連結されたものです。連結する結合組織が策状である場合は骨間靭帯といい、やや広範な膜状を呈する場合は骨間膜といいます。
下腿骨遠位の下脛腓関節における脛腓靭帯結合や、前腕の骨間膜による橈骨骨幹部と尺骨骨幹部の結合などがあります。
釘植
歯根と歯槽の結合を釘植といいます。顎の骨の歯槽に歯の歯根を釘を打ち込んだように嵌入し、強靭な線維性結合組織(歯周靭帯)により連結されています。
硝子軟骨結合
2つ以上の骨が硝子軟骨により結合されているものを硝子軟骨結合(しょうしなんこつけつごう)、あるいは狭義の意味で単に軟骨結合(なんこつけつごう)といいます。
この硝子軟骨結合は、主に成長期に見られる成長軟骨板をいいます。この結合は成長と共にやがて骨化して2つ以上に分かれた骨が一体化します。例えば骨盤の寛骨は成長期に、この成長軟骨板により腸骨、坐骨、恥骨の3つに分かれていますが、成人になると一体化して寛骨が完成されます。
その他に上腕骨や脛骨などの長管骨の骨端に見られる骨端軟骨や、頭蓋骨の軟骨性頭蓋などがあげられます。
線維軟骨結合
線維軟骨により骨の連結が成されているものを線維軟骨結合といいます。椎骨の椎体間連結(椎間板を介在による連結)、左右寛骨の恥骨結合、胸骨柄と胸骨体の連結(胸骨柄結合)があります。
2つ以上の骨が骨質で結合されたものを骨性連結(こつせいれんけつ)といいます。具体的には硝子軟骨結合や線維軟骨結合であった連結部分が骨化したもので、代表的なものとして骨盤を形成する寛骨や仙骨、尾骨があります。
脱臼とは、関節を構成するそれぞれの骨の関節面が正常な位置関係から脱出し、正常な関節運動が行えなくなった状態をいいます。また、互いの関節面(関節頭と関節窩)が完全に接触を失った状態を脱臼といい、一部の接触が保たれた状態を亜脱臼(または不全脱臼)といいます。
尚、外傷性脱臼は関節の可動域を超える外力が加わった場合に起こりますが、その際に脱臼や亜脱臼に至らなかった場合や、一度脱臼や亜脱臼を生じかけたが、直ちに元に復されて脱臼や亜脱臼に至らなかった状態は捻挫といいます。
1.外傷性脱臼
転倒による突き上げや急激な牽引、捻転など、外傷に起因する場合を外傷性脱臼といいます。外傷性脱臼では外力の作用幾序により、直達性脱臼と介達性脱臼に分けられます。
直達性脱臼
関節に打撃などの直接的外力が作用して、関節頭が外力に押し出されるように脱臼を生じた場合をいいます。
介達性脱臼
脱臼を生じた原因となる外力が、当該関節以外の部位を介して作用した場合をいいます。例えば、転倒して手を突いた場合に起こる肘関節脱臼では、手を突いた側の肘関節が過度の伸展を強要され、てこの原理が関節頭に作用して脱臼を生じます。また、格闘技などでは関節技で腕を逆手に取られた際に肘が過伸展されて脱臼を生じることもあります。外傷性脱臼の多くは、この様な介達外力により起こります。
2.病的脱臼
脱臼の原因が病的な因子による場合を病的脱臼といいます。例えば、リウマチなどの膠原病により関節が変形して脱臼するものや、骨壊死などによる関節端の破壊など関節組織の構造そのものが破壊されて起こる破壊性脱臼や 、関節を固定する筋肉の麻痺により起こる麻痺性脱臼、あるいは関節の炎症などにより関節内に浸出液が充満し、関節包が膨張して起こる拡張性脱臼などがあります。
3.反復性脱臼と習慣性脱臼
外傷性脱臼や病的脱臼など何らかの脱臼を生じたことにより、関節を構成する骨の変形、関節包の弛緩、靱帯の変性などが起こり、関節の支持力が低下したために、軽微な外力で繰り返し脱臼を起こすものをいいます。いわゆる脱臼がくせになった状態とも云えます。
尚、この様な軽微な外力で脱臼を繰り返すものを反復性脱臼といい、特定の運動や肢位・姿勢で常に脱臼を起こす場合を習慣性脱臼(位置性脱臼)として区別しています。
4.随意性脱臼
特定の関節を自分の意思で自由に脱臼させることができる場合を随意性脱臼(ずいいせいだっきゅう)といいます。
四肢の脱臼の方向
肩関節や膝関節など四肢の脱臼の場合は近位(体幹に近い側)の骨に対して遠位(体幹から遠い側)の骨が動いた方向により決められます。例えば肩関節脱臼では上腕骨頭が前方へ脱臼する場合を前方脱臼、後方へ脱臼する場合を後方脱臼といいます。また手指では遠位の骨が手の甲の方向に脱臼する場合を背側脱臼、手の掌の方向に脱臼する場合を掌側脱臼といいます。
脊椎の脱臼の方向
脊椎骨では骨盤を基準にしているため、例えば骨盤から遠い側の椎骨が骨盤に近い側の椎骨よりも前方へ脱臼した場合を前方脱臼といいます。
脱臼の状態により、完全脱臼、亜脱臼、関節包内脱臼、陳旧性脱臼に分けられます。
1.完全脱臼
関節頭が関節窩から完全に脱出した状態。
ほとんどの場合、骨頭が関節包を突き破り、関節包の損傷を伴います。また、靱帯断裂や関節窩などの骨折を伴うケースもあります。
<症状>
弾発性固定と持続性脱臼痛
弾発性固定(だんぱつせいこてい)は脱臼特有の症状で、関節頭が関節窩から逸脱しているために正常な関節運動ができないだけではなく、関節頭がその脱臼位置で固定されて、動きを全く封じられた状態です。他動的に無理矢理動かそうとしても、反発して脱臼位置に戻ってしまいます。そのため弾発性抵抗ともいわれます。また、脱臼した関節端が周囲の組織を圧迫しているために、整復されるまでの間は持続的な痛み(持続性脱臼痛)を生じます。
関節の変形
脱臼により関節は著しく変形し、脱出した関節頭の異常位置と関節窩の空虚を触知します。四肢の脱臼では、そのほとんどが健側よりも脱臼した患側の方が短縮して見えます。
皮下出血と腫脹
外傷性の完全脱臼では、関節包の損傷を伴うため、患部を中心に顕著な皮下出血と腫脹が出現します。
2.亜脱臼(または不全脱臼)
関節窩から脱出した関節頭の一部が、関節窩との接触を残している状態。即ち、関節頭が完全な脱臼をしておらず、いわゆる外れかかった状態のこと。
成長過程の未完成な関節、あるいは病的異常などにより、関節窩や関節頭に形状異常や形成不全がある場合や、脱臼を繰り返す習慣性脱臼の場合に多く見られます。
<症状>
弾発性固定と持続性脱臼痛
亜脱臼の状態でも、外れかかった状態で関節頭がロックされるため、完全脱臼と同様に弾発性固定が見られます。また脱臼した関節端により周囲の組織が圧迫されるため持続性の脱臼痛も生じます。
関節の変形
完全脱臼のように明らかな変形が見られない場合も多いのですが、健側と比較すると関節の変形を生じていることが視認できます。また、触診により関節頭の異常位置を触知できます。
皮下出血と腫脹
亜脱臼では関節包の損傷を伴わない場合がほとんどのため、皮下出血が観察されることはあまりありません。もし、亜脱臼で皮下出血が明確な場合は、骨折や靱帯損傷などの合併損傷が疑われます。腫脹も出現しない場合が多いのですが、亜脱臼した際に関節軟骨や関節内組織の損傷を伴う場合は関節の炎症を伴うため、著明な腫脹を起こすこともあります。
※ 亜脱臼の多くは、関節の構造的問題を原因としています。例えば、関節窩の大きさが関節頭と比較して小さく、関節頭をしっかり固定保持しにくいもの、あるいは関節窩や関節頭が変形して関節の密着性と保持力に問題があり、関節頭のずれを生じやすいものなどが挙げられます。その他にも、靱帯断裂を起こし、靱帯による支えを失ったものや、関節の適合性を高めるために機能している関節円板(かんせつえんばん)や関節唇(かんせつしん)などの線維軟骨が破綻しているものがあります。このように適合性や支持力を失った関節は、非常に不安定なために、関節包内で亜脱臼を起こす確立が高くなります。また、亜脱臼に反復性脱臼や習慣性脱臼が多いのも、この様な理由のためといえます。
以下の図は、関節窩の変形を原因とした亜脱臼の一例を略図で示したものです。このケースでは、本来しっかりと関節頭を支える構造をしているはずの関節窩が変形しているため、関節頭は前方に滑って亜脱臼を起こしてしまいます。
3.関節包内脱臼
関節包の損傷を伴わない脱臼で、関節包の中で脱臼を生じた状態。主に亜脱臼が多いのですが、部位によっては関節頭が関節窩から完全に脱出しているにも係わらず、関節包の損傷を伴わないものもあります。
関節包内脱臼を起こすのは亜脱臼の他、顎関節脱臼、習慣性肩関節脱臼、小児の肘の脱臼(肘内障)で見られます。
<症状>
弾発性固定と持続性脱臼痛
全ての脱臼において出現する脱臼の特有症状です。脱臼した関節端は固定され、周囲の組織を圧迫するために疼痛を生じます。これらの症状は、整復と共に消失します。
関節の変形
関節端が脱臼位に移動しているため関節の外観は変形し、関節端を異常位置に触知します。
皮下出血と腫脹
関節包の損傷を伴わないため、関節包由来の出血は起こりません。ただし、靱帯や骨の損傷を伴うものでは、皮下出血を伴います。腫脹は、靱帯や骨の損傷、あるいは、関節内組織の損傷や関節の炎症を伴った場合に限り起こりますが、通常の場合ほとんど起こりません。
4.陳旧性脱臼(ちんきゅうせいだっきゅう)
何らかの理由で、脱臼が整復されずに相当期間放置されたものを陳旧性脱臼(あるいは整復不能脱臼)といいます。
相当期間とは、一般的に脱臼により損傷した周囲の軟部組織(なんぶそしき)の修復が成される期間をいい、約3週〜4週程度といわれています。
陳旧性脱臼は、肩鎖関節脱臼(けんさかんせつだっきゅう)や手指あるいは足趾の脱臼で多くみられます。
<陳旧性脱臼の症状と経過>
持続性の脱臼痛は経過と共に消失し、腫脹や皮下出血も消退します。
空虚な状態だった関節窩は結合組織によって埋められ、関節包は変性・萎縮を生じます。当初、弾発性固定により動かなかった関節は、徐々に可動性がでてきますが、正常な関節運動は失われたままとなります。外観的にも変形が著しい状態で、整復はすでに不能の状態となっています。
さらに経過すると、関節頭と接している他方の骨面に仮性の関節窩が形成され、その周囲には結合組織により関節包様の組織が形成されます。それからしばらくすると仮性関節窩の周囲を線維軟骨様組織が覆って、関節頭との適合性が高められ、ここに新関節が形成されます。
治療活動の中でよく遭遇するものでは、肩鎖関節脱臼や指関節脱臼の陳旧性脱臼があります。これらを観察した経験では、脱臼受傷から3〜4年経過で日常生活に問題無く、外観は変形しているものの十分な可動性が確保されている状態になっていることが多く、人間の持つ自然治癒力に驚かされることがあります。
脱臼の合併症には、靱帯断裂、関節半月や関節唇などの線維軟骨損傷、骨折、腱断裂、神経損傷、血管損傷などがあります。
神経や血管の損傷は、主に脱臼した関節端による圧迫が原因のため、脱臼が整復されると改善されるものがほとんどです。ただし、血管の圧迫の場合、整復が遅れると阻血性拘縮(そけつせいこうしゅく)という非可逆性の重篤な状態になることがあるので、脱臼部分よりも末梢の脈拍が喪失していたり、皮膚の冷感や蒼白などが見られる場合は緊急処置を要します。
神経圧迫では、血管ほど重篤な障害を起こしませんが、整復が遅れると脱臼部分より末梢の神経線維が壊死を起こすため、回復まで長期間を要し、筋肉の萎縮や関節の拘縮 (こうしゅく)などを併発するため、リハビリも困難なものとなります。
関節半月や関節唇の損傷、あるいは靱帯の損傷を合併すると、関節の適合性や支持力が低下するため、スポーツを続ける場合や労働内容によっては、関節を再建する手術を要する場合もあります。また、後遺症として変形性の関節症を起こしたり、反復性脱臼に至ることもあります。
骨折の合併では、脱臼の際の衝撃により関節頭が関節窩の一部を削ぎ落とす場合と、関節窩の骨折により関節頭が脱臼してしまう場合などがあります。骨折の合併では、脱臼を先に整復することが原則とされています。尚、骨折を伴う場合は、ほとんどのケースで手術的な整復を要します。
靱帯断裂を伴うものでは、靱帯の修復が成されない場合、動揺関節などの関節が不安定な状態を後遺症として残ってしまいます。この様な場合は、習慣性脱臼などの原因となるので、靱帯を再建する手術を要します。
関節包の損傷を伴う完全脱臼では、関節拘縮(かんせつこうしゅく)を起こすため、可動域改善のリハビリを要しますが、あまり強引なリハビリは骨化性筋炎(こつかせいきんえん)を生ずることがあるので注意が必要です。
※ 骨化性筋炎(こつかせいきんえん)
骨化性筋炎は、骨に密着する筋肉や靱帯、骨膜などの軟部組織の損傷部位に骨を作る細胞が侵入して骨化が起こる現象です。骨折あるいは脱臼時の筋肉や骨膜、靱帯
、関節包などの損傷により起こる外傷性のものと、過剰な運動療法により、筋肉や靱帯などの組織が、微細な損傷や炎症を生じた部分に起こるものがあります。
成長期では、骨新生が旺盛なため大人よりも骨化性筋炎を生じやすいといわれます。
骨化性筋炎を生ずると、硬直したように関節の屈伸ができなくなります。
通常は、安静にすることで骨化した組織が吸収されていきますが、関節の運動機能が強く阻害されるような場合は、手術による骨化組織の除去を行います。
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