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肩関節(けんかんせつ)は、肩甲骨(けんこうこつ)の関節窩(かんせつか)と上腕骨(じょうわんこつ)の上腕骨頭(じょうわんこっとう)とで関節を構成しています。肩の脱臼は、上腕骨頭が関節窩から、その一部もしくは全部が外れた状態をいいます。肩の脱臼は、非常に頻度の高い脱臼のひとつで、習慣性になりやすい脱臼です。また、先天的要因や後天的要因で亜脱臼(あだっきゅう=不完全な脱臼、外れかかっているような状態)を頻繁に起こす症例も多く見られます。このページでは、肩関節の構造概要と肩関節脱臼を中心に、関連する情報も加えて解説します。
肩関節を構成する骨は、上腕骨頭と肩甲骨関節窩です。
肩甲上腕関節(けんこうじょうわんかんせつ)とも言われるこの関節は、半球状の関節頭(かんせつとう)を形成する上腕骨頭を、皿状の浅い窪みを形成する関節窩で受け入れるようになっています。
関節窩は上腕骨頭を受け入れるにしてはその窪みが浅く小さい上に、上腕骨頭が関節窩と接している部分は、上腕骨頭関節面の表面積の1/4と言われています。従って、骨性連結としては非常に不安定な造りになっています。
関節窩の辺縁には、関節唇(かんせつしん)と呼ばれる線維軟骨が有り、関節窩を補うようにその表面積を拡大し、骨頭関節面との適合性を高めています。また、関節窩の上部と下部には骨隆起が有り、上部を関節上結節(かんせつじょうけっせつ)、下部を関節下結節(かんせつかけっせつ)といいます。これらの結節は肩関節を支持する靱帯や上腕の筋肉の腱が付着しています。
上腕骨頭の辺縁には解剖頚(かいぼうけい)と呼ばれる「くびれ」が有り、その外側には大結節(だいけっせつ)と呼ばれる大きな骨隆起があります。また大結節の前方には、小結節(しょうけっせつ)と呼ばれる骨隆起があります。
肩関節の骨性連結を覆う様に存在する線維性組織が関節包(かんせつほう)です。
関節包は、関節窩外縁から上腕骨の解剖頚に付着しています。その容積は上腕骨頭関節部分の2倍近くあるといわれています。
関節包の外層は線維層(せんいそう)と呼ばれ、弾力性を有した線維を少量含む密性結合組織(みっせいけつごうそしき)で構成されています。この組織は線維が密に存在し、比較的強固な構造をしています。また、関節包外層の線維が肥厚している部分を関節包靱帯(かんせつほうじんたい)といい、関節の連結性を高め、また関節運動時に骨頭の動きを制御し、効率的な関節運動が行えるように支持する働きもあります。
関節包の内層は滑膜層(かつまくそう)と呼ばれ、弾性線維を少量含んだ疎性結合組織(そせいけつごうそしき)で構成されています。この疎性結合組織は、密性結合組織と比較して線維はまばらで隙間があり、神経・血管が豊富に分布し、マクロファージや脂肪細胞なども混在しています。
滑膜層の表面は滑膜細胞で覆われています。この滑膜細胞からは、ヒアルロン酸などを含む滑液が分泌され 関節の滑りを円滑にする役割があります。また、豊富な血管や神経が分布する滑膜層は、血管や神経を持たない関節内組織の代謝活動を助けます。
関節包は、肩甲下滑液包と上腕二頭筋長頭腱滑液包の2つの組織と連絡孔を通して交通しています。肩甲下滑液包は、烏口突起の下部で肩甲下筋と肩甲骨の間に位置する小さな滑液包で、肩甲骨と肩甲下筋の摩擦を防いでいます。上腕二頭筋長頭腱滑液包は上腕骨の結節間溝(けっせつかんこう)に位置し、上腕二頭筋長頭腱の滑動性を高め、摩擦を防ぐ腱鞘
(けんしょう)として存在する組織です。関節包はこれらの滑液包と連絡することで、関節内の圧力の調節を行っています。肩関節の捻挫や脱臼、いわゆる五十肩などの外傷や障害により、この連絡孔が癒着して塞がると、肩関節の内圧が上昇しても圧力を逃がすことができなくなり、就寝時の疼痛や炎症時の持続的疼痛の原因になると言われています。
肩関節の連結を補強する靱帯(じんたい)は、関節包靱帯(かんせつほうじんたい)と烏口上腕靱帯(うこうじょうわんじんたい)があります。関節包靱帯は、関節包の線維膜が肥厚して形成される靱帯で(右肩関節を前方から見た略図2を参照)、肩関節の関節包靭帯を関節上腕靱帯(かんせつじょうわんじんたい)といいます。この関節上腕靱帯は、
上関節上腕靱帯、中関節上腕靱帯、下関節上腕靱帯の3つが知られています。
上関節上腕靱帯は、肩甲骨の関節上結節から上腕骨の大結節、小結節の上部に向かって存在し、肩関節の上部を補強しています。この靱帯は後述の烏口上腕靱帯
(うこうじょうわんじんたい)と共に上腕骨頭の過剰な下垂を防ぎ、関節の適合性を高めています。この靭帯を損傷し、支持機能を失うと上腕骨頭は下垂し、いわゆるルーズショルダーの原因となることがあります。
中関節上腕靱帯(中間関節上腕靱帯)は、関節窩の上部から始まり、肩関節の前下方へ斜走しながら上腕骨の小結節に付着しています。この靱帯は関節包の前方を補強し、肩関節の外転運動などに際し、上腕骨頭が前方へ逸脱するのを防止する作用があります。中関節上腕靱帯が先天的に欠落していたり、肩関節脱臼などでこの靱帯
を損傷すると、習慣性脱臼の原因になると言われています。
下関節上腕靱帯は、関節包の下方全体を補強する靱帯で、肩関節挙上時に上腕骨頭が下方へ逸脱するのを防止する役割などがあります。この靱帯は前方が最も厚く、後方へ向かうほど薄くなっており、以前は前方部分のみが靱帯であると認識されていたようですが、最近では薄いながらも後方まで存在することが分かっています。また文献によっては、前下関節上腕靱帯、中間下関節上腕靱帯、後下関節上腕靱帯の3部構成と説明されていることもあります。
烏口上腕靱帯は、烏口突起の基部から始まり、大結節と小結節の上端に付着しています。この靱帯は上肢を下垂している時に緊張し、上腕骨頭上部を関節包に密着させると同時に上腕骨頭下部を関節窩に密着し、肩関節が上肢運動の支点となるように支持します。従ってこの靭帯を損傷すると上腕の外転(側方挙上)や屈曲(前方挙上)の動作が不安定でぎこちなくなったり、挙上動作が困難になったりします。
肩関節の上方には肩甲骨の肩峰と烏口突起を結ぶ烏口肩峰靭帯があります。この靭帯は肩関節に直接連結していませんが、肩関節の外転や屈曲に際し、上腕骨頭が過剰に上方偏位を生じないように抑制する働きがあります。従って肩関節の運動機能に関与する意味では重要な靭帯といえます。
これら関節包靭帯や周囲を取り巻く靱帯は、肩関節運動に際し、上腕骨の動きに合わせてそれぞれ緊張や弛緩をすることで上腕骨頭を支え、あるいは誘導や抑制に関与し、スムーズな関節運動を実現しています。
肩の脱臼は肩関節脱臼(けんかんせつだっきゅう)と言われ、上腕骨頭の一部もしくは全部が肩甲骨関節窩から脱出した状態をいいます。
肩関節脱臼は、関節窩に対して上腕骨頭が脱臼した方向により、前方脱臼、後方脱臼、下方脱臼、上方脱臼に分類されています。しかし、実際に遭遇するのは前方脱臼がほとんどで、稀に後方脱臼を見るぐらいです。従がって、このページでは、前方脱臼と後方脱臼を中心に解説します。
上腕骨頭が肩甲骨関節窩に対して、前方に脱臼した状態を言います。肩関節脱臼の9割を締め、最も発生率の高い脱臼です。肩関節前方脱臼は、上腕骨頭の脱臼位置により烏口下脱臼(うこうかだっきゅう)と鎖骨下脱臼(さこつかだっきゅう)に分けられます。
※ 文献によっては、腋窩脱臼(えきかだっきゅう)や関節窩下脱臼(かんせつかかだっきゅう)を肩関節前方脱臼に分類する場合があります。これは脱臼の発生幾転として、関節包の前方を損傷し、関節窩の前下方へ脱臼するためのようです。このページでは、これらを下方脱臼に分類して解説します。
烏口下脱臼
上腕骨頭が関節窩前方へ脱出し、烏口突起の下部にある状態です。関節包の前方を損傷し関節包外へ上腕骨頭が脱出する関節包外脱臼の場合と、関節包の損傷がほとんど無い関節包内脱臼の場合があります。
関節包の前方を損傷する関節包外脱臼では、上関節上腕靱帯と中関節上腕靱帯の間にある肩甲下滑液包への連絡孔であるヴァイトブレヒト孔(Weitbrecht's
foramen)を通るように関節包前方と中関節上腕靱帯を破って、上腕骨頭が脱臼します。
関節包内脱臼では、上腕骨頭が関節窩前方へ脱臼する際に関節包が伸展されて、関節窩前縁や下縁の付着部で伸びきるように部分損傷します。この時に関節窩周縁にある線維性軟骨の関節唇が、
脱臼時の上腕骨頭との衝突により、その前縁や前下縁を剥離損傷(はくりそんしょう)している場合もあります。
鎖骨下脱臼 (さこつかだっきゅう)
鎖骨下脱臼は上腕骨頭が烏口下脱臼よりもさらに内方へ偏位した状態で、鎖骨下に上腕骨頭を触知します。
鎖骨下脱臼の多くは、肩甲下滑液包への連絡孔であるヴァイトブレヒト孔を通るように、関節包前方と中関節上腕靱帯を破って上腕骨頭が鎖骨下へ脱臼します。
鎖骨下脱臼では上腕骨頭の偏位が大きく、そのために大結節に付着する回旋筋腱板 (かいせんきんけんばん)後方部分である棘上筋(きょくじょうきん)後方線維、棘下筋(きょくかきん)、小円筋(しょうえんきん)の損傷や、大結節の剥離骨折
(はくりこっせつ)を伴うケースもあります。
肩関節前方脱臼の症状
烏口下脱臼では、上腕軽度外転挙上(腕を外側に上げた状態)し、健側(脱臼していない側)の手で患側(脱臼した側)の腕を支える姿勢になります。またその外転挙上位で肩関節が固定され、他動的にも自動的にも腕が動かせなくなります。この状態を弾発固定(だんぱつこてい)もしくは弾発抵抗(だんぱつていこう)といい、この現象は脱臼固有の症状です。
健側と患側の肩を比べると、患側の肩は自然な丸みが消失して肩峰が角状に突出し、上腕の長軸が内方に偏位して見えます。
触診では、肩峰下に空虚な関節窩を触知し、前方の烏口突起下に上腕骨頭の丸みを触れます。
鎖骨下脱臼でも症状はほとんど同じですが、上腕の内方偏位はさらに顕著となり、上腕骨頭を鎖骨下に触知します。また、弾発固定の肢位が烏口下脱臼よりもさらに外転挙上位となるため、健側で脱臼した腕を支える姿勢が、患側の手首や指先を健側の手で持って前上方に突き出す様な状態になるため、まるで手首や指を痛めて支えているように見えることもあります。また、烏口下脱臼と同様に患側の肩は自然な丸みが消失して肩峰が角状に突出しますが、その程度が烏口下脱臼よりもさらに明瞭になります。大結節の剥離骨折を合併している場合は、肩峰下に剥離骨片を触知し、皮下出血が顕著に出現します。
肩関節前方脱臼の治療
肩関節前方脱臼の整復は、比較的容易です。専門家に依頼すれば簡単に整復されるはずです。ただし、前方脱臼の多くはヴァイトブレヒト孔に骨頭を突っ込むように脱臼するため、上腕骨頭のくびれにあたる解剖頚の部分が滑膜に引っ掛かって整復の妨げとなることがあり、このような事態では専門家でも整復に苦労する場合があります。また、脱臼時に剥離損傷した大結節や関節窩辺縁部分が、関節窩と骨頭の間に嵌入して整復の妨げとなる場合もあります。この様に徒手整復が困難な場合は、整形外科で手術的に整復することとなります。
徒手整復の方法は数多く考案されていますが、代表的なものにヒポクラテス法(Hippocratic method)やコッヘル法(Kocher's
method)などがあります。これら整復法のほとんどは、脱臼して前内方に偏位した上腕骨頭を外方へ誘導しながら関節窩に戻す手法となっています。その原理は図に概略を示しています。
尚、コッヘル法は骨格の弱い患者に行うと整復操作中に骨損傷を来す恐れがあり、またヒポクラテス法は梃子とする足の操作が難しく、腋窩神経を圧迫する恐れがあるため、それぞれ熟練を要します。従って整形外科や接骨院では
その他の様々な整復法も試みられ、よりスムーズで二次損傷を生じない方法が考案されています。
脱臼整復後は、脱臼により損傷した関節包靱帯の自然修復を妨げない様に、約3週程度の固定をします。固定をしっかりしないと、靱帯の修復が不十分となり、再脱臼の原因となることがあります。また、固定期間が過ぎてもしばらくの間は動作に注意が必要です。固定期間中に肩関節周囲の筋肉が萎縮するので、その筋肉が回復するまでは激しい動作を自重しましょう。
肩関節前方脱臼の合併症には、バンカート損傷、ヒルサック損傷、大結節剥離骨折、腋窩神経麻痺、血管損傷、回旋筋腱板損傷などがあります。以下、比較的頻度の高い合併症について解説します。
バンカート損傷とヒルサック損傷
バンカート損傷とヒルサック損傷は、肩関節前方脱臼に最も多く合併する損傷です。
これらは、前方脱臼を生じるときに上腕骨頭後面と関節窩前縁の衝突を起した時に発生します。
上腕骨頭後面と関節窩前縁の衝突を起こした時に、関節窩前縁の関節唇(かんせつしん:線維軟骨)や関節窩前下縁の剥離損傷を生じたものをバンカート損傷(Bankart
lesion)といいます。一方、上腕骨頭の後面上部を陥没骨折、もしくは関節軟骨の剥離損傷を生じたものをヒルサック損傷(Hill-Sachs lesion)といいます。
バンカート損傷では関節唇や関節窩縁の支持性を失い、下関節上腕靱帯の張力が減弱するため、習慣性肩関節脱臼の原因となります。また、ヒルサック損傷では、上腕骨頭の後面欠損による平坦化変形に至り関節面の不適合を生じるため、上腕の外旋動作をすると肩関節の動揺関節や脱臼などを誘発します。
大結節剥離骨折 (だいけっせつはくりこっせつ)と
回旋筋腱板損傷(かいせんきんけんばんそんしょう)
上腕骨の大結節には、肩関節運動に関与する回旋筋腱板の後方を構成する腱が付着しています。従って、前方脱臼を生ずる際に大結節の腱付着部に強い張力が加わって、回旋筋腱板後方要素の付着腱の損傷や、大結節の剥離骨折を生ずることがあります。
回旋筋腱板は4つの筋肉の腱が集合して構成されており、前方から肩甲下筋、棘上筋、棘下筋、小円筋のそれぞれの腱が上腕骨に付着しています。その内、棘上筋と棘下筋の腱が大結節の大部分を占める範囲に付着しており、前方脱臼の際に周囲筋、腱の中では最もストレスを受ける部分になっています。
回旋筋腱板損傷や大結節剥離骨折の存在は脱臼整復後に判明するケースが多くあります。回旋筋腱板損傷では棘上筋腱や棘下筋腱の断裂を生じ、脱臼整復完了後も上肢の挙上ができないことでその損傷を疑います。腱断裂が疑われる場合は、整形外科にて画像検査を行い診断を確定します。
大結節剥離骨折では、骨折片の転位を生じることが多いのですが、大概のケースで脱臼整復と共に骨片転位も整復されます。骨折の存在は、脱臼の整復確認時の観察や整形外科のレントゲン検査で判明します。腋窩神経は、肩関節の前方脱臼や後述する下方脱臼で圧迫障害を受けることが多く、脱臼が整復されると圧迫が解除されて回復します。しかし、圧迫により神経線維が 挫滅していると、脱臼が整復された後も神経麻痺が残存し、三角筋の萎縮、上腕の挙上障害、上腕上部の後面及び外側の疼痛、知覚異常などの症状が見られることがあります。
腋窩神経損傷(えきかしんけいそんしょう)
腋窩神経は、鎖骨から上腕へ向かう腕神経叢(わんしんけいそう)の枝で、肩甲骨関節窩前下方の辺りから腋の下を通り、上腕の後方上部や外側上部に分布しています。
腋窩神経は、三角筋や小円筋の運動神経枝や肩外側の皮膚知覚枝を出しているので、この神経が圧迫されると三角筋や小円筋の運動麻痺や肩外側の知覚麻痺を生じます。
触診では、熟練を要しますが、Quadrilateral space
(四角腔:小円筋、大円筋、上腕三頭筋の外側頭と長頭に囲まれる腋窩神経の通路。略称はQLS)に顕著な圧痛を触知します。脱臼整復と共に腋窩神経の圧迫が解除されると、漸次その圧痛は消失しますが、神経線維などの挫滅があり、神経傷害が残るとQLSの圧痛も残存します。
上腕骨頭が肩甲骨関節窩に対して、後方に脱臼した状態(背中の方へ向かって外れた状態)を言います。
前方へ転倒したときに、上腕内旋位で手や肘を突いた場合に起こるとされていますが、普通前方へ転倒するときは、片手だけで体を支えることは少なく、膝を着いたり、両手で庇ったりするので、あまり頻度の高い脱臼ではありません。従ってショックやてんかん、あるいは泥酔時など意識の薄弱な状態での転倒で起こることが多いとも言われています。 また、スポーツ外傷としての報告では、スキーやスケートなどでバランスを崩して転倒したときに、前方へ手や肘を着いて後方脱臼を生じた例があります。
肩関節後方脱臼は、脱臼した上腕骨頭の位置で肩峰下脱臼(けんぽうかだっきゅう)と棘下脱臼(きょくかだっきゅう)に分けられていますが、棘下脱臼はほとんど見ることがないほど極めて稀といわれています。
肩関節後方脱臼の症状
肩峰下脱臼では、上腕は内旋位(内側に捻れた状態)、尚且つ軽度外転位(上腕を30〜40゚ぐらい外側に上げた状態)で固定され、ほとんど肩関節の運動が不可能な状態となっています。
前方から肩関節を観察すると、健側と比較して患側は肩関節の前方への自然な丸みが消失して見え、肩外側の丸みも平坦になったように見えます。
側面から見ると後方へ、やや膨隆した骨頭を観察・触知できます。一方、棘下脱臼では、肩関節の正常な丸みが完全に消失し、肩峰が突出して見え、上腕骨頭を肩甲棘下に触知します。また、上腕は内旋位、尚且つ軽度外転位(腕を外側に上げた状態)で、肘の先端を前外方へ突き出すような姿勢で弾発性に固定されています。
レントゲン検査では、上腕骨頭が関節窩に対してまっすぐ後方に移動しているため、正面像では見逃される場合があり、側面像や斜位像(肩甲骨Y撮影)などで上腕骨頭が関節窩の後方にあることを確認します。
肩関節後方脱臼の治療と予後
肩峰下脱臼の整復は、比較的容易です。脱臼肢位のまま前外下方へゆっくり牽引すると整復されます。整復後は、三角巾や包帯などで固定します。固定肢位(固定された上腕の姿勢)は、前方脱臼では、通常上腕屈曲内旋位(上腕をやや前方に曲げ、肘を屈曲して前腕が身体の前に位置する姿勢)としますが、後方脱臼では、上腕軽度外転外旋伸展位(上腕をやや外側に上げて肘を屈曲し、肘が身体のやや後方に下げるような状態で手の先がやや外へ向く姿勢)で固定します。
棘下脱臼は徒手整復が難しく、観血的(手術による)整復しなくてはならないケースが多いようです。
肩関節の後方脱臼では、関節の適合性を高める役割をする関節唇という軟骨を損傷し、関節の支持性が低下して習慣性脱臼となる場合が多く、また周囲を支える回旋筋腱板を損傷すると肩の運動範囲が狭くなり、回復訓練に時間を要することもあります。
肩関節後方脱臼の合併症
後方脱臼の合併症には、関節唇や関節窩後縁の損傷(逆バンカート損傷)、上腕骨頭前内面に生じるトラフ骨折(関節軟骨面が谷状に陥没する骨折で、逆ヒルサック損傷とも言われる)、腋窩神経損傷などがあります。またその他に、肩甲下筋の損傷、小結節剥離骨折の報告もあります。
肩関節下方脱臼には、腋窩脱臼(えきかだっきゅう)と関節窩下脱臼(かんせつかかだっきゅう)があります。
腋窩脱臼は、関節窩の前下方に脱臼し、腋窩(いわゆる腋の下)に上腕骨頭が偏位した状態です。関節包の大きな損傷を伴わない関節包内脱臼である場合が多いようです。
関節窩下脱臼は、垂直脱臼もしくは直立脱臼とも言われ、上腕が90゚以上に外転挙上した状態の脱臼位で弾発固定を起す脱臼です。この脱臼では、回旋筋腱板損傷、上腕二頭筋長頭腱断裂、腋窩神経損傷、関節窩下縁骨折、上腕骨頭後上方関節面の圧迫骨折などの合併を生じやすいとされています。
肩関節上方脱臼は、極めて稀な脱臼で、関節窩上方へ乗り上げ、肩峰と烏口突起の間に上腕骨頭が偏位します。肩峰や鎖骨外端などの骨折を伴って起こる症例が報告されています。
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